■穀物は乾燥保存できるけれど、そのままでは発酵しない
穀物は乾燥させれば長く保存できる。 ただ、そのままでは固くて食べられないし、菌も働けない。
だから中国のひしおでは、 穀物を一度蒸したり茹でたりしてから発酵させた。
加熱すると細胞壁がほぐれ、糖化が進み、菌が働ける状態になる。
この「穀物を加熱してから発酵させる」という技法が、ひしお文化の核だと思う。
■日本に伝わったのは“技法”であって、同じ味ではない
日本に伝わったとされるのは、 穀物を加熱してから発酵させるという“作り方”や“概念”。
でも、同じ作り方でも同じ味にはならない。 発酵は土地と菌が育てる文化だからだと思う。
■日本には麹菌がいた──世界にもいるが、日本だけが“住処”を作った
麹菌そのものは世界中に存在する。
ただ、日本は麹菌の住処となる「麹室」を作り、菌と共生する文化を育てた。
菌の存在を知らないまま、 麹が育つ条件だけを経験で積み重ね、
温度と湿度を整えた“麹のための部屋”を作った。
平安の頃にはその原型があり、 室町〜戦国で部屋として成立し、 江戸で完成する。
麹室は麹菌を培養する研究室ではなく、 麹が育つ環境を整えた結果、
麹菌が勝手に増える“菌の家”やった。

■麹室は全国どこにでもあったわけではない
麹室は日本中に普及したわけではない。
ただ、 味噌・醤油・日本酒を生業にする地域には必ず存在した。
麹を大量に、安定して作る必要がある土地では、 麹室が蔵の一部として育ち、
麹菌がその蔵に住み着いていく。
土壁、木桶、土間の湿度、米を蒸す暮らし。
こうした環境が菌を育て、地域ごとに“蔵付き麹菌”が生まれた。
■ひしおは日本の菌に触れた瞬間から別物になる
ひしおが日本に伝わったとしても、 麹菌に触れた瞬間からそれはもう別物になる。
大麦や大豆を加熱して発酵させるという技法は同じでも、
日本の菌、湿度、木桶、米文化が加われば、仕上がる味はまったく違う。
■豆ひしおは日本で独自進化し、醤油・味噌へつながっていく
豆ひしおは日本の蔵で育ち、日本の菌と環境で独自の進化をとげた。
その延長線上に、醤油や味噌が生まれていく。
そして麹菌は、豆ひしおだけでなく、 米を使う酒や酢、みりんの世界にも静かに広がっていく。
発酵文化は輸入品ではなく、土地が育てるもの。
そのことを、豆ひしおの物語がそっと教えてくれる。


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