日本酒は、なぜ日本でしか生まれなかったのか

食と体の関係

日本酒は、日本でしか自然発生しなかった酒だ。 理由は、土地に住む菌と文化の重なりにある。

日本列島には、麹菌(A. oryzae)がいた。

湿度、森林、気温、土壌── この菌が育つ条件が揃っていたのは日本だけだった。

麹菌が米を糖化し、酵母が発酵する。 糖化と発酵が同時に進む「並行複発酵」。

この“日本酒の並行複発酵”は、日本の麹菌があってこそ成立した。

■ 古代、人は「米はそのままでは発酵しない」と知っていた

米はそのままでは発酵しない。

古代の人々はそれを経験として知っていて、 口で噛むことで米を糖化させていた。

口噛み酒は、人が酵素の役割を担っていた時代の酒。

その役割を、後の時代に麹菌が引き継いだ。 ここから日本酒の文化が始まる。

■室町で酒が商業化し、米が選ばれ始める

酒屋が登場し、酒が商品として流通し始めると、 「酒向きの米」が選ばれるようになる。

  • 粒が大きい
  • 心白が出る(※米の中心にある白い“スポンジ状の部分”。麹菌が入りやすくなる。)
  • 吸水が安定する
  • 雑味が少ない

食べる米の中から、酒造りに向いた米が選ばれ始めた。 ここが酒米文化の芽生え。

■ 江戸で酒米文化が誕生する

江戸時代になると、酒造りは一気に成熟する。

灘、伏見── 水と米と蔵が揃った土地に酒どころが生まれ、 大量生産が可能になり、

米の品種改良が進む。

ここで初めて、 食べる米と酒に使う米が分かれた。

酒米は「食べて美味しい米」ではない。

麹菌が入りやすく、雑味が出ず、発酵が安定する── 発酵のために育てられた米だった。

■ 山田錦は昭和に誕生した“酒米の完成形”

酒米文化のルーツは江戸にあるけれど、 山田錦そのものは昭和11年(1936年)に誕生した。

山田穂 × 短稈渡船。 粒が大きく、心白が出やすく、吸水が安定し、雑味が少ない。

酒米として理想的な性質を持ち、 「酒米の王様」と呼ばれるようになった。

日本酒は、米そのものの進化とともに深まっていった。

■ 日本酒は今、世界の土地で仕込まれている

日本酒は日本で生まれた文化だけれど、 今では海外でも日本酒が造られている。

その土地の水と米で、 その土地の人が仕込む日本酒。

日本で生まれた文化が、 別の土地で根づき、循環し、育っていく。

その広がり方が、なんだか嬉しく感じられた。

■まとめ

日本酒は、日本列島の菌と米と蔵が生んだ固有の文化だった。

古代は食べる米でつくり、 室町で酒向きの米が選ばれ、 江戸で酒米文化が生まれ、

昭和で山田錦という完成形が誕生した。

そして今、日本酒は世界の土地で仕込まれ、 それぞれの土地の文化として育ち始めている。

日本酒は、土地と文化がつくる“循環のかたち”だった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました