ヒマラヤから地元の海へ

食と体の関係

■ ピンクソルトから始まった、塩との付き合い方

最初に手に取ったのは、ヒマラヤのピンクソルトだった。

見た目が綺麗で、肉に直接ふったり、サラダにかけたりする“仕上げの塩”としては

確かに合っていた。 おいしくないわけじゃない。

むしろ、料理によってはしっかり存在感を出してくれる塩だったと思う。

ただ、その時の自分には、 このお洒落なピンクソルトをうまく使いこなせなかった。

毎日のごはんに使うには、どこか自分と合っていないように感じていた。

そして、ピンクソルトから海水塩に切り替えた理由は、 味が分かっていたからではない。

むしろ逆で、 「どうせ使うなら、ミネラル分が多い方が身体に良さそう」 という、

ほんの小さな気持ちからだった。

その後になって、 岩塩と海水塩ではミネラルの含有量がまったく違う ということを知り、

自分の選択が自然とそちらに向かっていた理由が腑に落ちた。

岩塩は塩化ナトリウム(NaCl)の含有量が多く、味がストレート。

海水塩はにがり(Mg・K)が自然に残っていて、味がまろやか。

さらに、岩塩は数百万年という時間をかけて結晶化した塩。

結晶が安定しているぶん、舌に当たる刺激が少し丸くなると言われている。

だから、成分表以上に“まろやかさ”を感じることがある。

そしてもう一つ。 僕は長い間、伯方の塩を使っていた。 伯方の塩は食塩相当量が高く、

味がまっすぐ立ち上がる。 その比較で、ピンクソルトの“角の少ない塩味”が柔らかく

感じられたのかもしれない。

こうして振り返ると、ピンクソルトが悪いわけではなく、

ただ当時の自分には少し合っていなかっただけだった。

■ 海塩に変えて気づいた、まろやかさの正体

次に使ったのは、フランスのゲランドの塩・セルファン。

劇的に料理が変わったわけではないけれど、 ひと口ふれると、どこかやわらかい塩やなと感じた。
理由はシンプルで、海塩には“にがり”が自然に残っているから。 にがりがあると食塩相当量が
下がり、味が少し丸くなる。 その時はまだ、塩の違いを深く理解していたわけではない。
ただ、毎日のごはんの中で、 「なんとなく、こっちの方が落ち着く味やな」
そんな小さな実感があった。

 

■ 恵安の潮で見つけた、“続けられる塩”

次に使ったのが、中国の海塩「恵安の潮」。 旨味があって、まろやかで、コスパも良い。

普段使いとしてはかなり優秀だった。

ただ、袋に書かれた「衛生安全…」という文字がどこか気になった。

味は良いのに、心のどこかで 「日本の中でなるべく循環したい」

という気持ちが芽生え始めていた。

■ そのタイミングで届いた、地元の塩

そんな時、実家から届いたのが「一の塩」だった。 しっとりとした粗塩で、

にがりが自然に残っている。

使ってみると、味が驚くほどやさしくて、料理にすっと馴染んだ。 “まろやか”というより、

“落ち着く”という感覚に近い。

そして何より、 「日本の中でなるべく循環したい」 という気持ちに自然と寄り添ってくれた。

遠い国の岩塩もいい。 海外の海塩もいい。 でも、毎日使うものだからこそ、

自分が育った土地の海で作られた塩を選びたい。

そんな思いが静かに湧いてきた。

さらに、この塩を送ってくれたのが母というのも大きかった。

「地元のものを使ってくれたら嬉しい」 そんな母の気持ちが重なって、

“地元への小さな恩返し” のようにも感じられた。

気づけば、一の塩は台所の定位置に落ち着いていた。 これはもう、必然やったんやと思う。

■ 食塩相当量という“答え合わせ”

塩を色々試していく中で、最近になって知ったのが「食塩相当量」。

これがすべての答えをつないでくれた。

  • ピンクソルト → 食塩相当量が高いが、結晶が安定していて角が立ちにくい
  • 伯方の塩 → 食塩相当量が高く、味がストレート
  • 海水塩 → にがりが残り、味がまろやか
  • 一の塩 → にがりが自然に残り、味に奥行きがある

自分の舌が感じていたことは、全部理屈で説明できた。

■ 伯方の塩・赤穂の塩はどうなの?

塩の話をすると、友人から必ず聞かれるのがこの2つ。

どちらも悪い塩ではない。 ただ、どちらも“再製塩”というカテゴリーに入る。

● 伯方の塩

  • 原材料:メキシコ・オーストラリアの天日塩
  • 日本で水に溶かして再結晶
  • にがりは調整済み
  • 食塩相当量:95.5〜98.8g(しょっぱめ)

● 赤穂の塩

  • 原材料:オーストラリアの天日塩
  • 日本で溶かして平釜で炊く
  • にがりは調整済み
  • 食塩相当量:92g(伯方より少し柔らかい)

どちらも料理には十分使えるし、価格も安い。

ただ、海水をそのまま濃縮して作る“自然塩”とは少しだけ違う。

■ 再製塩は“濃縮還元ジュース”に近い

再製塩の仕組みは、例えると濃縮還元オレンジジュースにとても似ている気がする。

  • 一度外国で濃縮(天日塩)
  • 日本で水に溶かして戻す
  • 海水由来のミネラル(にがり)を調整して味を整える

自然塩は“生搾りジュース”。 海水そのままのバランスで、味もミネラルも自然のまま。

■ 最後に辿り着いた場所

塩を深掘りしていくほど、 自分が何を大切にしたいのかが少しずつ見えてきた。

  • 価格
  • 続けやすさ
  • 自然製法
  • 地元の海
  • 日本の中で循環する選択

これらが全部そろっていたのが、一の塩だった。

ヒマラヤから始まった塩の旅は、 気づけば地元の海へと帰ってきていた。

日本では塩田が廃止され、工業的な精製塩が主流になった時代もあった。
大量生産の塩も、毎日の暮らしを支えるうえで大切な存在やと思う。
それでも、海の精や粟国の塩のように、手間と時間をかけて塩づくりを続けてきた人たちがいる。
普段口にする“家庭の味”としては、 こういった塩を選んで、未来へ残していきたい。
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